長唄「連獅子」
日本舞踊のぬりえ「長唄 連獅子(れんじし)」の解説です。
獅子の親子の愛情をテーマにした演目です。厳しくも愛情深いお父さん獅子、試練を乗り越えて、大人に一歩近づいた仔獅子を、かっこよく塗ってあげてね。
目次
・「長唄 連獅子(れんじし)」ぬりえの解説
・「長唄 連獅子(れんじし)」ってどんなはなし?
・獅子と牡丹はひとセット
・「長唄 連獅子(れんじし)」の歌詞
むすこよ、つらいしれんを よくのりこえた。こんなにうれしいことはない。
ほら、みてごらん。ぼたんのはなが さきみだれて、ちょうちょも まっている。おまえのゆうきをたたえて、さあ、わたしたちも まおうじゃないか。
My son, you overcame a difficult challenge. There is nothing more happy than this.
Look, the peony flowers are blooming and the butterflies are flying. In honor of your courage, let’s dance together.
親獅子が仔獅子を崖から蹴落として育てるという「獅子の子落とし伝説」をモチーフにした作品。歌舞伎でも非常に人気のある、名作です。
音楽について
長唄とは?・・・歌舞伎から生まれた三味線音楽のジャンル。細棹三味線という小ぶりの三味線と唄、場合によって鼓など「お囃子」が加わって構成されます。
「長唄 連獅子(れんじし)」ぬりえの解説
獅子の親子を演じる二人が、獅子頭(ししがしら)という、獅子の頭とかたどった小道具をもってポーズをきめています。
「獅子」とは空想上の生き物ですが、みなさんもよく知っている、「ライオン」がモデルです。ライオンのように大きくて強いんですよ。「獅子舞」は見たことがありますか?あの獅子と同じものです。
踊りのポイント
「お父さんのポーズ」と、「獅子頭」に注目です。
お父さんのしているこのようなポーズは、他の踊りでもよく出てきます。片足に体重をかけ、もう片方の足を斜め前に出します。このときはおしりを真っ直ぐ下に落として、後ろにつき出さないのが、カッコよく見えるポイントです。
「獅子頭」を見てください。持っている人の顔と、同じ向きをしていますね。獅子頭は小道具ですが、獅子頭を持っている人は、獅子になりきって踊っています。ですので、踊る人と獅子頭は同じ方向を向いているのです。
また、獅子頭についている布(『しころ』といいます)が、着物の襟にかからないようにするのもポイントです。絵を見ると、布は肩にかかっていて、襟が見えていますね。これが正しい位置です。
お着物のポイント
着物は、「浅葱(あさぎ)八つ替わり染に扇面(せんめん)散らし」といいます。
浅葱は、「藍(あい)」という植物で染めた、鮮やかな水色、「八つ替わり」とは着物を八つに分割して染め分けていることから、そう呼ばれます。「扇面散らし」は、扇の模様を着物全体に散らしていることを表しています。
袴は「黒地に牡丹唐草染(ぼたんからくさぞめ)」です。
あとで解説しますが、「獅子」と相性の良い「牡丹の花」と、「長寿・繁栄」を表す「唐草」を組み合わせています。「牡丹唐草」は、大昔の中国から伝わって、ずっと人気のあるロングヒットの模様です。
あと、細かいのですが、「しころ」に注目してください。花びらのような模様がありますね。これを「獅子毛(ししげ)」または「毛卍文(けまんもん)」といいます。これは、獅子の毛がくるくる巻き毛(『卍』に似ている)になっていることを文様にデザインしたものです。この模様が出てきたら、それは「獅子」を表しているのです。
「長唄 連獅子(れんじし)」ってどんなはなし?
テーマは「親子の愛情」。獅子の親子の物語です。3部構成のとても長い曲で、全部上演すると1時間近くにもなります。
「獅子の子落とし伝説」
第1部は、獅子の親子が現れて、「獅子の子落とし」という場面を演じます。「獅子の子落とし」とは、獅子のお父さんが子どもを崖の下に突き落として、這い上がらせて強い獅子に育てたという、伝説のお話しです(なんて厳しいお父さんでしょう!)。
仔獅子が必死に崖をよじ登る様子、それを心配そうに見守る親獅子、諦めそうになりながら、勇気を奮い立たせて崖を登り切り、最後には二人で喜びの舞を舞うところなど、みどころが満載です。
ぬりえは、この第1部のラスト、親子が喜びの舞いを舞うシーンを取り上げています。
お坊さんの、おもしろおかしい口ゲンカ!?
第2部は、打って変わって、二人のお坊さんが登場します。同じお坊さんなのですが、考え方の違いで、言い争いになります。その二人のケンカの様子が、おもしろおかしく描かれるのが第2部です(法華宗と浄土宗の宗論争い、といいます)。
最後は、激しい「狂い」踊り
第3部は、再び親子の獅子が登場します。こんどは、床まで届くほどの長い髪(毛)を振り乱して(『毛振り(けぶり)』といいます)激しく踊ります。
「獅子と牡丹」は切っても切れない関係!
「獅子と牡丹」は、相性がよいとされており、絵画でもセットで描かれることが多いです。
「連獅子」でも、舞台となるところには、牡丹の花が咲いている設定になっていますし、袴に牡丹の花が描かれます。それはなぜでしょう。それは、獅子の「弱点」にあります。
意外なことに、百獣の王・獅子の弱点は、獅子の身体にとりついている「虫」です。「獅子身中の虫(しししんちゅうのむし)」といいます。
獅子の体の毛にとりつき、ときには獅子の命をうばってしまうほどの恐ろしい虫なのですが、その薬となるのが「牡丹の花の夜露」なのです。
牡丹の花の下は、「百獣の王」獅子にとって安らぎの場所。だから「獅子と牡丹」はセットで描かれることが多いのです。
「長唄 連獅子(れんじし)」の歌詞
(『法華宗と浄土宗の宗論争い』は台詞となっており、長文になるのでここでは省略いたします)
獅子の子落とし伝説
それ、牡丹は百花の王にして、獅子は百獣の長とかや。桃李(とうり)に勝る牡丹花(ぼたんか)の、今を盛りに咲き満ちて、虎豹(こひょう)に劣らぬ連獅子の、戯れ遊ぶ石の橋。
そもそも、これは尊くも、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)のおわします、その名も高き清涼山(せいりょうざん)。峨々(がが)たる巌(いわお)に渡せるは、人の工(たくみ)にあらずして、おのれとここに現われし、神変(じんぺん)不思議の石橋(しゃっきょう)は、雨後に映ずる虹に似て、虚空を渡るがごとくなり。
峰を仰げば千丈(せんじょう)の、雲より落つる滝の糸。谷を望めば千尋なる、底はいづくと白波や。巌に眠る荒獅子の、猛き心も牡丹花の、露を慕うて舞い遊ぶ。
かかる険阻(けんそ)の巌頭(がんとう)より、強臆(ごうおく)ためす親獅子の、恵みも深き谷間(たにあい)へ、蹴け落とす仔獅子は、ころころころ、落つると見えしが、身を翻し、爪を蹴立てて駈け登るを、また突き落とし、突き落とされ、爪の立てども嵐吹く、木蔭にしばし、休らいぬ。
登り得ざるは臆せしか、あら育てつる甲斐なやと、望む谷間は雲霧に、それとも分かぬ八十やそ瀬川せがわ。水に映れる面影おもかげを、見るより仔獅子は勇み立ち、翼なけれど飛び上がり、数丈(すじょう)の岩を難なくも、駈け上あがりたる勢いは、目覚ましくもまた、勇ましし。
胡蝶(こちょう)に心、和ぎて、花に顕れ、葉に隠れ、追いつ追われつ余念なく、風に散りゆく花びらの、ひらり、ひらり、ひら、ひら、翼を追うて、ともに狂うぞ面白き。
第2部 宗論争い(省略)
獅子の狂い
それ、清涼山の石橋は、人の渡せる橋ならず、法(のり)の奇特におのづから、出現なしたる橋なれば。
しばらく待たせ給えや、影向(ようごう)の時節も今いくほどに、よも過ぎじ。
獅子団乱旋(ししとらでん)の舞楽の砌(みきん)、獅子団乱旋の舞楽の砌。牡丹の花房、匂い満ちみち。大巾利巾(たいきんりきん)の獅子頭。打てや、囃せや、牡丹房。黄金(こうきん)の瑞、現れて、花に戯れ、枝に臥(ふ)しまろび、げにも上なき獅子王の勢い。
獅子の座にこそ、直りけれ。