長唄「手習子」

日本舞踊のぬりえ「長唄 手習子(てならいこ)」の解説です。

習い事の帰り道に、ちょっと道草をしてしまった女の子の踊りです。「お年頃」の女の子の気持ちが描かれています。

着物だけではなく、「絵日傘」にも花柄が書いてあります。器用な人は、ここもしっかり塗ることに挑戦してみましょう。

目次

・「長唄 手習子(てならいこ)」ぬりえの解説

・「長唄 手習子(てならいこ)」ってどんなはなし?

・江戸時代の学校!?寺子屋ってどんなところ?

おしゅうじ、おこと、おしゃみせんにおどり。
あーあ、おぼえることがたーくさん!かえりにすこしくらい
みちくさしてもいいわよね。

Calligraphy, koto*, shamisen*, and dance.
Oh my, there are so many things I have to learn! I’m sure it wouldn’t hurt if I chase a butterfly on my way home.
*Koto (or Okoto) is a Japanese harp.
*Shamisen is a stringed instrument shaped like a guitar.

ある春の日、寺子屋帰りの娘さんが、日傘や手習草紙(文字の練習帳)を手に、道草をする様子を描いた曲です。蝶を追うあどけなさや,ちょっとませた娘の恋心などが歌われます。「蝶々」「日傘」「手習い草紙」など、小道具がたくさん出てくるのもこの曲の楽しみです。

音楽について

長唄って?・・・歌舞伎から生まれた三味線音楽のジャンル。細棹三味線という小ぶりの三味線と唄、場合によって鼓など「お囃子」が加わります。

「長唄 手習子(てならいこ)」ぬりえの解説

お着物・小道具のポイント

女の子の持っている傘を「和傘」と呼びます。日本の昔からの傘です。

ご覧のように、骨がたくさんあります。竹の骨に丈夫な和紙を貼っています。雨傘には油や柿渋で防水加工がしてありますが、女の子の持っているのは日傘(絵日傘)です。持ち方は、このように、柄の一番下から少しあけて、しっかりと握ります。

懐に白い、四角いものがありますね。これは「懐紙(かいし、ふところがみ)」といいます。その名の通り、懐に入れて持ち歩く和紙です。

使い道はさまざまで、拭く、包む、書き留める、敷くなど、今でいえば、ちり紙、ハンカチ、ポチ袋、メモ帳etc…の代わりでしょうか。とっても便利に活躍しました。

女の子が手に持っているのは「手習草紙(てならいそうし)」。字の練習帳です。和綴じという綴じ方をしています。

「長唄 手習子(てならいこ)」ってどんなはなし?

桜の咲く春の道を、女の子が手習草紙を片手に寺子屋の帰り道です。蝶々がでてきて追いかけたり、恋の憧れを表現したり、10歳前後の女の子の、ちょっとませた気持ちを描きます。

「ふたつ文字から書そめて、悋気恥かし角文字の、すぐな心のひと筋に」という、なにやらよくわからない歌詞が出てきます。

これは「こいし(恋しい)」という言葉をなぞかけのように表現したもの。「徒然草(つれづれぐさ)」という物語に出てくる和歌からの引用です。

ふたつ文字は、横に「ふたつ」線を引いた「こ」を表し、角文字とは、牛の角のような「い」をあらわし、「すぐな心のひと筋」は、縦にまっすぐ線を引いた「し」を表しています。徒然草ではこの後に「ゆがみ文字」である「く」が加わって、「恋しく」となります。

もとの和歌は、「ふたつ文字牛の角文字すぐな文字ゆがみ文字とぞ君は覚ゆる」あなたを恋しく思っていますよ、という意味です。

江戸時代の学校!?寺子屋ってどんなところ?

寺子屋とは、いまでいう塾のようなところ。

いまのように学校はありませんから、町で寺子屋(筆学所ともいう)が開かれていました。先生は町民が多く、そのほかにも農民、商人、武士などいろいろな身分の人が先生をしていたようです。

この女の子は、「手習ひ覚え琴や三味線踊の稽古」とありますように、寺子屋以外にもたくさん習い事をしていますね。けっこう大変そうです。

ちなみにこの「踊の稽古」が、おそらく日本舞踊のはじまり。日本舞踊という言葉は明治維新の後に出来た言葉なのですが、町の稽古場で踊りの教室が始まったのは江戸時代と言われています。歌舞伎の振付師(踊りの振付を専門にしている人)が、町の人に踊りを教え始めたのが最初と言われています。

「長唄 手習子(てならいこ)」の歌詞

今を盛りの花の山、来ても三芳野花の蔭、あかぬ眺の可愛らし、遅桜まだ蕾なり、

花娘寺子戻りの道草に、てんと見事な色桜、ひな草結ぶ島田髷、はしたないやら恋しいやら

肩縫ひ上のしどけなく紙撚くひ切る縁むすび、ほどけかかりし繻子の帯、振の袂のこぼれ梅、

花の笑顔のいとしらし、ふたつ文字から書そめて、悋気恥かし角文字の、すぐな心のひと筋に、

お師匠さんのおっしゃったを、ほんに忘れはせぬけれど

ふつつり悋気せまいぞと、矯んで見ても情けなや

まだ娘気の跡や先、あづまへもなきあどなさは、粹なとりなり目に立つ娘

娘々とたくさんにさうに、言ふておくれな手習ひ覚え琴や三味線踊の稽古

言はずかたらぬ我が心、乱れし髪の乱るるもつれないは唯移り気な、どうでも男は悪性者

さくらさくら諷はれていふて袂のわけ二つ、勤めさへ唯うかうかと、どうでも女子は悪性者、東育ちは蓮葉なものぢやへ

恋のいろはにほの字を書いて、それで浮名のちりぬるをわか、よたれそつねならむうゐ心おく山けふこえて、

逢ふた夢みし嬉しさに、飲めどもささに酔ひもせず、京ぞ恋路の清書なり

つまの為とて天神様へ願かけて、梅を断ちます明白サア、われ一代立ちます明白、梅を梅を立ちます明白、

サアわれ一代実ほんに、さうぢやいな品もよや

請鳥の囀り、梢々の枝にうつりて風に翼のひらひらひら、梅と椿の花笠着せて着せて、眺めつきせぬ春景色

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