長唄「雨の五郎」

日本舞踊のぬりえ「長唄 雨の五郎(あめのごろう)」の解説です。

江戸時代に絶大な人気を誇った「曽我兄弟の仇討ち物語」から生まれた演目です。

曽我兄弟の弟、五郎が春雨の降る中、傘を差して恋人から来た手紙を読んでいるシーンです。

目次

・「長唄 雨の五郎(あめのごろう))」ぬりえの解説

・「長唄 雨の五郎(あめのごろう)」ってどんなはなし?


てがみをくれた こいびとに、いよいよきょうは あえるひだ。
はるさめがふっているが、たとえ ゆきがふったとしても
こいびとにあうために やってくるよ。

Today is the day that I can finally meet the love of my life who sent me a letter.
Spring showers are sprinkling. Even if it snowed, I will come to see my love.

父のかたきを討った曾我兄弟の物語は江戸っ子に大人気でした。「雨の五郎」では曾我兄弟の弟・五郎が、恋人である「化粧坂(けわいざか)の少将」の元へ、雨の中駆けつける様子が、仇討ちへの勇ましい心と交互に唄われています。

音楽について

長唄って?・・・歌舞伎から生まれた三味線音楽のジャンル。細棹三味線という小ぶりの三味線と唄、場合によって鼓など「お囃子」が加わります。

長唄 雨の五郎(あめのごろう)」ぬりえの解説

曽我兄弟(あとでくわしく解説します)の弟で、この演目の主人公「五郎」が、春雨の降る中、恋人の「化粧坂の少将(けわいざかのしょうじょう)」からもらった手紙を読んでいるシーンです。

お着物のポイント

和傘

五郎が持っている傘は、みなさんがいま使っている傘と違って「和傘」と呼ばれます。竹の骨に和紙を張った傘です。雨傘には油や柿渋を塗って防水加工を施しました。

五郎の持っている傘は、その模様から「蛇の目傘(じゃのめがさ)」といいます。模様がヘビの目に似ているからです。

「五郎蝶」の着物

五郎の着物には、大きく「蝶」が描かれています。五郎が着る蝶なので、「五郎蝶」と言います。

曽我兄弟にはトレードマークがあります。兄の十郎は千鳥、弟の五郎は蝶です。それぞれ二人が着る装束の模様です。

雨の五郎の歌詞に「そのありさまは牡丹花に つばさひらめく 胡蝶のごとく」とあるのは、五郎の着物のが蝶の柄だからです。

天紅(てんべに)の手紙

巻物の手紙の上辺に「紅」で色をつけたものが「天紅の手紙」で、遊女(ここでは、五郎の恋人の『化粧坂の少将』)が客に送るものです。

歌舞伎や日本舞踊で小道具としてしばしば登場し、天紅の手紙が登場しただけで、舞台にそこはかとなく、色気が漂います。

長唄 雨の五郎(あめのごろう)ってどんなはなし?

江戸時代に絶大な人気を誇った「曽我兄弟の仇討ち物語」から生まれた演目です。

鎌倉時代(いまから約800年前)、曽我兄弟という武士の兄弟がいました。兄は曽我十郎祐成(すけなり)、弟が「雨の五郎」に登場する曽我五郎時致(そがときむね)です。とりあえず「十郎・五郎兄弟」と覚えてください。

二人は、父親を工藤祐経(くどうすけつね)という武士に殺されてしまい、仇討ちをするために旅しています。成長した二人が、敵(かたき)を討つのは1193年。

鎌倉幕府の将軍・源頼朝の家来になっていた工藤が、狩りに出るのを見計らい、寝所に忍び込みます。二人は、工藤が夜、酒に酔っぱらって寝ているところに奇襲をかけ、見事に敵討ちを果たします。

兄の十郎はその場で討ち死にしてしまいましたが、弟の五郎は無事で、頼朝に敵討ちの心情を延べ、この想いは頼朝の心を打ちました。

しかし、罪は罪、あとに残された工藤の遺児の心情もくみ取って、頼朝は五郎に斬首刑を申しつけるのでした。

敵討ちだけではなく十郎の恋人「大磯の虎御前」五郎の恋人「化粧坂の少将(けわいざかのしょうじょう)」の存在も、曽我兄弟人気の一つとなっています。

長唄 雨の五郎(あめのごろう)の歌詞

さるほどに 曽我の五郎時致(ときむね)は 倶不戴天(ぐふたいてん)の父の仇 討たんずものとたゆみなき

弥猛心も春雨に 濡れてくるわの化粧坂(けわいざか) 名うてと聞きし少将の 雨の降る夜も雪の日も

通ひ通ひて大磯や 廓の諸分のほだされやすく誰に一筆 雁のつて 野暮な口説を返す書

粋な手管についのせられて 浮気な酒によひの月 晴れてよかろか 晴れぬがよいか

とかく霞むが春のくせ いで オオそれよ 我もまた いつか晴らさん父の仇 十八年の天つ風

いま吹き返す念力に 逃さじやらじと勇猛血気 そのありさまは牡丹花に つばさひらめく 胡蝶のごとく

勇ましくもまた 健気なり

 

藪の鴬 気ままに鳴ひて うらやましさの庭の梅 あれそよそよと春風が

浮名立たせに 吹き送る 堤のすみれ さぎ草は 露の情けに濡れた同士 色と恋との実くらべ

実 浮いた仲の町 よしやよし 孝勇無双のいさをしは 現人神と末の代も

恐れ崇めて今年また 花のお江戸の浅草に 開帳あるぞと賑しき

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