清元「子守」
日本舞踊のぬりえ「清元 子守(こもり)」の解説です。
子守の仕事をしている女の子の踊りです。とんびに、おつかいで買った油揚げを持っていかれて、追いかけるうちに転んでしまうという、というとても印象的なシーンで始まります。子どもをあやしながら、恋や故郷への憧れなどを踊ります。
目次
・「清元 子守(こもり))」ぬりえの解説
・「清元 子守(こもり)」ってどんなはなし?
・「子守」ってどんな仕事?
とんびさん かえして!それはおつかいでかった、
たいせつな あぶらあげよ。
もう、こもりって ほんとうにたいへん!
Give it back, Tombi-san! That is my precious deep-fried tofu that I bought on errands. Oh boy, baby-sitting is really hard !
子守という仕事は、田舎から出稼ぎにきた10歳前後の少女の仕事でした。子供をあやしながら恋への憧れや、越後の綾竹踊りを、故郷を思い出しながら踊ります。多感な少女の心情が描かれた演目です。
音楽について
清元って?・・・浄瑠璃という人形劇の音楽として生まれました。叙情的、技巧的、洗練された高音が特徴です。細棹~中棹の三味線を使用します。歌舞伎にもよく登場します。
「清元 子守(こもり)」ぬりえの解説
お着物・小道具のポイント
おもちゃ尽くし
少女が着ているねんねこ半纏の柄は「おもちゃ尽くし」といいます。
着物の模様にはさまざまありますが、その中に「〇〇尽くし」というジャンルがあります。
その一つが「おもちゃ尽くし」です。でんでん太鼓、小鳥、羽根、打ち出の小槌、手毬などかわいい子供の玩具が散りばめられています。
はりこの犬や凧、羽子板などを入れるものもあるようです。
ちなみに、他の「〇〇尽くし」には、花尽くし、丸尽くし、宝尽くしなどがあります。
黄八丈(きはちじょう)
ねんねこ半纏の下に着ている、黄色に格子柄の着物は「黄八丈」という布でできています。
黄八丈は、八丈島に伝わる黄色・樺色・黒色を基調とする草木染め。格子柄が印象的ですが無地のものもあります。
秋田でも生産されており「秋田八丈」と呼び分けることもあります。とても美しい色ですが、意外にも、コブナグサという全国的に分布するイネ科の、いわゆる雑草で染められてます。
「子守」では、「田舎から出てきた少女」の象徴として黄八丈が使われています。
麻の葉模様
少女の長じゅばん(一番下に着ている着物)の柄は「麻の葉模様」といいます。
成長が早い麻にあやかって、子どもの健やかな、真っ直ぐな成長を願う、という意味が込められています。魔よけの意味もあるそうです。
江戸時代、歌舞伎役者の四代目・岩井半四郎が、「八百屋お七」というお芝居で、浅葱色の麻の葉模様の衣裳を使用したのをきっかけに、庶民の間で広まりました。その人気ぶりは、数多くの浮世絵にも描かれていることからも伺えます。
小道具
「子守」には、たくさんの小道具が出てくるのも、楽しいポイントです。
イラストに出てくる、「とんび」「赤ちゃん(人形)」「味噌こし」は、小道具です。このほかにも、綾竹(故郷の越後を思い出して踊るシーンに登場)や風車などが登場します。小道具がたくさんあって、楽しいですね。
「清元 子守(こもり)」ってどんなはなし?
地方から江戸へ、出稼ぎに来て子守の仕事をしている少女のおはなしです。子どもをあやしながら、恋への憧れや、望郷の想いなどを踊ります。
子守の仕事をするのはたいてい、地方の貧しい農家などから出稼ぎにきた少女でした。年齢は10歳前後。遊びたい盛りで感情も揺れ動く時期に、たいへんな仕事をしなければならず、辛く感じることもたくさんあったと思います。
しかし、「子守」の少女は、「仕事が大変!」だけではなく、仕事中に子どもを置いて考え出したり、踊り出すなど、どこかひょうひょうとしているところも伺えます。
一方で、とんびに油揚げをとられてしまったり、転んでしまったり、おっちょこちょいなところがあったり、江戸言葉になれた自分が、故郷の人と話してつい「お国訛り」が出てしまうのに気付く瞬間があったりと、いろんな表情を見せてくれます。
子どもが踊ることが多い作品ですが、このような理由から大人にも人気のある演目です。
「とんびに油揚げをさらわれる」意外な由来とは?
「とんびに油揚げをさらわれる」ということわざを聞いたことはありますか。
「大事にしていたものを、他人にとられてしまう」というような意味です。これには意外な由来があります。実は、鳥の「とんび」が由来ではないのです。この「とんび」は、職業としての「鳶(とび)」のこと。大工さんだと思ってください。
江戸の町火消の主な活動は、家を壊して延焼を防ぐことでした。その仕事には、家の解体を熟知している鳶(とび)の職人が多く携わっていました。
火事が起こると、火消しの女房達は、豆腐屋へ行って油揚げを買い占め、火消したちの食事として、稲荷ずしをたくさん作りました。
「火事が起こると、鳶の人たちのために、油揚げが買い占められた」ということです。このことから、「鳶に油揚げをさらわれる」という言葉が生まれたそうです。
「清元 子守(こもり)」の歌詞
オヤッかなと何としょえ
アイタゝゝゝ膝頭を擦りむいた
憎い鳶づら油揚さろうた
おゝ泣くなよい子じゃ
こんな物やろうな
お月様幾つ 十三七つ
まだ年ゃいかぬ山出しが
わたしゃ何うでも斯うでも
あの人ばかりは諦めきれぬ
じゃによって讃岐の金比羅さんへ
願でも掛けましょうか
仇口の花さえ咲かぬ生娘の
枝姿振もぶっきらぼう
鼻緒切らして方々掲げて
がっくりそっくり
みどり子おろして
これからは
並べたてる人形店
サアサア安売りじゃ
何でも可でも選取りじゃ
みどりは禿紅は
花の姿の姉様を
口説き文句は浄瑠璃で
聞き覚えたその侭に
ほんに思えばあとの月
宵庚申の日待の夜
甚句踊や小唄踊や小唄節
数ある中にこなさんの
お江戸で言わゞ勇み肌
好いた風じゃと瀬戸家から
見かじり申してなま中に
気もあり松の藍絞り
色に鳴海と打ち明けて
晩げ忍んで来めさるならば
コレナ嬉しかろではないかな
なぞと浮かれて座頭の坊
冴えた月夜にやみ市ではないかいなア
やみ市なりゃこそ真黒なア
炭屋のお客と行くわいな
座敷で何をひかんすえ
盆の踊になまめかし
お前越後か私も越後
お国訛が出てならぬ
新潟出る時ゃ涙で出たが
今や新潟の夢も見ぬ
オオイ船頭さん
寄ってかんせの
戻りに鯨でも積んでごんせの
踊りおどらば品よくおどれ
品のよいのを嫁にとろ
松前殿様持ち物は
鳥賊 蛹 海鼠にちんの魚
寄らしゃんせ面白や
またも鳶めとろゝとは
太い奴と豆腐屋へ
子を引っかたげて(急ぎゆく)