常磐津「屋敷娘」
日本舞踊のぬりえ「常磐津 屋敷娘(やしきむすめ)」の解説です。
仕事がお休みでウキウキしている、女の子が主人公です。蝶々と踊ったり、恋の想像をして、うっとりしたり。
女の子は、「御殿(ごてん)模様」という着物を着ています。少し模様は細かいですが、着物が好きなひとは、この模様をキレイにぬることにも挑戦してみてください。
目次
・「常磐津 屋敷娘(やしきむすめ)」ぬりえの解説
・「常磐津 屋敷娘(やしきむすめ)」ってどんなはなし?
・この女の子は、どんなお仕事をしているの?
おしごとは、きょうからしばらくおやすみ。うれしいな。
あら、ちょうちょさん、こんにちは。わたしといっしょに
おどりませんかって?もちろんいいわよ。
I am on vacation for a while from today. How wonderful.
Hello there, butterflies. Oh, you would like me to dance with you? Of course I will.
武家屋敷へ奉公している娘が、「宿下がり」というお休みをもらって、うきうきしている様子を描いています。蝶々とたわむれる様子が印象的なので、「蝶々娘」とも呼ばれます。
音楽について
常磐津って?・・・浄瑠璃という人形劇の音楽として生まれました。ゆったりとした重厚な雰囲気が特徴です。歌舞伎にもよく登場します。
「常磐津 屋敷娘(やしきむすめ)」ぬりえの解説
女の子がお扇子をもって、蝶々と一緒に踊っているシーンです。
踊りのポイント
「おすべり」の形を描いています。「おすべり」は日本舞踊に独特の動きで、足を床に滑らせながら、ゆったりと横に揺れるような動きです。
踊るときは、このイラストのように、肩を落として、女性らしい、やわらかい曲線の美しさを見せられるとすてきですよ。
お着物のポイント
女の子の着物は「御殿(ごてん)模様」という柄です。「御所解(ごしょどき)模様」ともいいます。
これは江戸時代に宮中や大名などに使える御殿女中(ごてんじょちゅう)が来ていた着物の模様です。
四季の草花や、山、水に加え、御所車、檜扇(ひおうぎ)、几帳など様々なモチーフを、刺縫、友禅、鹿の子などを取り入れて描きます。ぬりえでは菊、梅、鹿の子模様を描きました。
なお、屋敷娘では御殿模様ではなく、「矢絣(やがすり)」という模様の着物もよく選ばれます。「タイトル」に使われている模様です。
矢絣も女中さんが着ていた着物の柄で、どちらが正解、というわけではなく、どちらを着てもかまいません。演出によっては両方の衣裳を着たり、矢絣と御殿模様を組み合わせた柄の衣裳を着たりすることもあるようです。
袖が長いこの着物は、「振袖」といいます。「振れるほど袖が長い」ということですね。結婚する前の女性が着る着物です。
また、着物の裾が地面についていますね。普通は「おはしょり」をして、裾が地面につかないようにしますが、おはしょりをしない、このような着方を「裾引き」とか「お引きずり」などといいます。御殿女中さんの室内での着方です。
「常磐津 屋敷娘(やしきむすめ)」ってどんなはなし?
武家屋敷に務めている女の子が、「宿下がり(宿入り、藪入り、などともいう)」というお休みをもらって、うきうきしている様子を描いた作品です。
蝶々と遊ぶシーンが印象的で「蝶々娘」と呼ばれることもあるほどです。
いまでは、土曜日と日曜日がお休み、というのが普通ですが、江戸時代は今とちがっていて、お休みはお正月とお盆のころの年に2回しかありませんでした。
厳しいところでは、数年に一回しかまとまったお休みをもらえない、というところもあったようです。お休みはいまでも嬉しいですが、江戸時代のお休みは、もっと嬉しかったでしょうね。
お休みになると、お勤め先からお小遣いをもらい、実家に帰ったり、実家が遠い人はお芝居に行ったり買い物にいったりして過ごしました。この女の子は楽しい恋愛の想像をしているようですね。
この女の子は、どんなお仕事をしているの?
武家屋敷に勤めて、主人の外出のお供、家の掃除、おつかいなどの家事、子弟の教育係まで幅広くこなしました。裁縫、生け花、お茶などのたしなみも学んでいたそうです。
このお勤めは、別名「行儀見習い」ともいわれました。その意味は、仕事をしながら行儀作法を学ぶ、という意味です。行儀作法を身に着けることは、女性にとって良縁(よい結婚)を引き寄せる手段でもありました。
江戸時代はいまのように学校がありませんから、このお仕事が、そうしたことを学ぶ場でもあったわけですね。
「常磐津 屋敷娘」の歌詞
千草(ちぐさ)も野辺(のべ)の通い路に、
色も香もある盛りの色を、
君が返事にあいの花、
こちゃこちゃこちゃ手折りて欲しや。
恋をする身はまがきの小菊、
露に葉ごとの濡れまさる、
ええ、濡るる、しょんがいな。
色香含みて愛らしき。
過ぎし弥生の桜時、花見の幕の垣間見に、
ふっと目に付く殿振に、
ぞっとするほど思いの増して、
胸に絶えせぬ綾瀬川、水に羽音の鴎をば、
都鳥とも名にこそ呼ばれ、
思いすごして今の身は、
ほんにつくづく山寺の、
憎い坊さんじゃないかいな。
恋にははずむ手まり唄。
ひとつとやのさのえ、一夜重ねて二夜三夜。
芝居噺に夜を明かす、墨田の上野の眺めにも、
心も浮いて物見行き、お宿下りに遅れ咲き、
これも世界の花ならん、しおらしや。
花に来て、秋の香慕う蝶胡蝶、
羽交い並べて乱菊の
花の露吸うしおらしさ、たわむれ遊ぶ。
きりはったりちょう、きりはったりちょう、
女夫ごと可愛ゆらし。
色という字はいたずらものよ、
無理な合図にせかせておいて、
嬉しい仲じゃと引き寄せて、
相合傘の濡れかかる。
それほど誠があるならば、
じつ誓文濡れしゃんせ、
いとしいの字の比翼紋、しおらしや。
げに月ならば、秋の最中の、名にし負う
笑顔も萩の下風に、露を厭うて道芝の
衣紋(えもん)直して急ぎゆく