長唄「関の小万」
日本舞踊のぬりえ「長唄 関の小万(せきのこまん)」の解説です。
「小万」という女性が、親のかたき討ちを果たした話から生まれた踊りです。
「色を含むや冬ごもり」などの「セリフ」もあるかわいらしい踊りです。
目次
・「長唄 関の小万(せきのこまん))」ぬりえの解説
・「長唄 関の小万(せきのこまん)」ってどんなはなし?
・「関の小万」はとっても貴重な作品!?
みてみて、このはながさ、きれいでしょう?わたしがおどると、おつきさまも わらうのよ。
あなたのおどりも だれかをえがおにするでしょう?
Look at this, isn’t it pretty? When I dance, the moon puts on a smile. I bet your dance also puts a smile on someone else, too.
関の小万は女性ながら、剣術の稽古に通い、親のかたき討ちを果たしたと言われています。また絶世の美女だったことからも人気があり、数多くのお芝居の題材になっています。
音楽について
長唄って?・・・歌舞伎から生まれた三味線音楽のジャンル。細棹三味線という小ぶりの三味線と唄、場合によって鼓など「お囃子」が加わります。
長唄 関の小万(せきのこまん)」ぬりえの解説
花笠をもった「小万」が右手を差し出しているポーズです。
お着物のポイント
花笠
小万が手に持っている、花で装飾された笠のことです。花笠は、全国の祭りや祭礼で使用されています。山形各地で行われている「花笠まつり」が特に有名です。
生花や造花を笠に装飾しますが、琉球舞踊では、笠そのものが花を模しているものもあります。
市松(いちまつ)模様と元禄模様
元禄時代(1688~1704年)ごろに流行した模様です。
市松模様、弁慶縞、格子、鹿の子、輪ちがい、鱗つなぎ、槌車など、華やかで派手さが特徴の模様は「元禄模様」と総称されます。
この元禄お用を取り入れた「元禄風の着物」というのが、関の小万のひとつのトレードマークになります。必ずこれ、というパターンはありませんが、元禄模様などをどこかに取り入れると、雰囲気が出ますよ。
ぬりえでは、着物に「市松模様」を取り入れました。
ちなみに、なぜ「市松」というかというと、上方役者の佐野川市松が「高野心中」の小姓・粂之助役で大当たりしたときに来ていた石畳模様が「市松模様」と呼ばれ流行したことに由来します。
長唄 関の小万(せきのこまん)ってどんなはなし?
「小万」という女性が、親のかたき討ちを果たした話から生まれた踊りです。
ただ、「長唄 関の小万」の歌詞自体は、「笠」にかけて、いろんな言葉が紡がれていて、さながら「笠尽くし」ともいえる内容ですが、これといって明確なストーリーはありません。
元になったお話は、こんな話です。
九州久留米(くるめ)の有馬氏の剣道指南役であった牧藤左衛門は、同輩の小林軍太夫に恨みを買い、殺されてしまいます。
牧藤左衛門の妻は、身重ながら敵(かたき)を討とうと旅に出ますが、鈴鹿峠を越えたところの関宿・山田屋で力尽き、ひとり娘の「小万」を産んで間もなく命を落とします。
山田屋のあるじの夫婦は、小万の養い親となり、亀山藩に頼んで小万に武芸を習わせました。
1783年(天明三年)、ついに父の敵と巡り合えた小万は、馬子に扮して待ち伏せし、見事、仇討ちを果たします。小万は仇討ちを果たした後も、養い親をよく助けましたが、36歳という若さで亡くなりました。
*諸説あります。
「関の小万」はとっても貴重な作品!?
「関の小万」は歌詞だけ見ると取りとめのない話ではあるのですが、舞踊の歴史から見ると、非常に貴重な演目とされています。
それは、長唄という言葉が生まれたころの、とても古い時代の作品で、そのころの踊りの特徴を現代に伝えているからです。
日本舞踊の歴史をさかのぼると、まずは「歌舞伎」に行き当たります。江戸時代に歌舞伎の振付師が街の子女に踊りを教え始めたのが日本舞踊の始まりです(ちなみに『日本舞踊』という言葉は、明治時代にできたことばで、それまでは単に、『おどり』などといわれていたようです)。
歌舞伎のルーツは「出雲阿国(いずものおくに)」という女性がはじめた「かぶきおどり」という舞踊劇のようなものでした。最初は、阿国が女性であったように、「かぶきおどり」は女性がするものでした。
これが「女歌舞伎」の時代です。
しかし、派手で色っぽい女歌舞伎は、世の中の風紀を乱すということで、幕府によって禁じられると、若い男性が踊る「若衆歌舞伎(わかしゅかぶき)」の時代へと変わります。
やがて「若衆歌舞伎」も女歌舞伎同様の風紀を乱すという理由(いまでいうBL(ボーイズラブ)みたいなことが当時の若衆歌舞伎でも起こった)で禁止されると、今の歌舞伎の原型に近い「野郎歌舞伎」の時代へ移ります。これが1653年ごろの話です。
「関の小万」は「「若衆歌舞伎」のころの作品で、このころの踊りが受け継がれていることがとても貴重なのです。
長唄 関の小万(せきのこまん)の歌詞
関の小万は亀山かよひ 色を含むや冬ごもり
初春の祝いにて ぬふちょう袖の花笠
夏は涼しき網代笠 秋は高尾にそめたりな紅葉笠
それそれ小万 またおどりだせ
小万てん手拍子がそん揃うた
そろたそろた そろそろそろたとさ
月の笑顔に 菅笠を揃えて
そりや誰が笠よ そりや誰が笠よ
冬は雪見にかざす袖笠
花の都の御所塗り笠よ なりがようて
さてさてどっこい ようござる
花の一重は亀山の 花の一重は亀山の
見ても見あかぬ春景色